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オーディオドラマ「五の線2」

オーディオドラマ「五の線2」

闇と鮒

オーディオドラマ「五の線」の続編です

232 - 47 第四十四話
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  • 232 - 47 第四十四話
    45 .mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/
    Mon, 22 Jun 2015
  • 231 - 129 【お便り紹介】
    おたより.mp3 五の線2終了直後(2017年)に頂いていたお便りに今更ながらの返信です…。 よかったらお聞きください。 成田ナオさん/hachinohoyaさん/踊る屍さん
    Thu, 02 May 2019
  • 230 - 128.2 最終話 後半
    126.2.mp3 「12月24日お昼のニュースです。政府は24日午前、2015年度第3次補正予算案を閣議決定しました。今回の補正予算は今年10月に国家安全保障会議において取りまとめられた「日本国の拉致被害者奪還および関連する防衛措置拡充に向けて緊急に実施すべき対策」に基づいた措置を講じるためものです。 この予算案では先ごろ国内で発生したツヴァイスタンの工作員によるテロ未遂事件を受けてのテロ対策予算の拡充として500億円。ツヴァイスタンに拉致された疑いがある特定失踪者の調査費として28億円。近年日本海側で脅威となっている外国船の違法操業対策および外国公船の領海侵入対策として海上保安庁の予算を新たに1,000億円追加します。あわせてツヴァイスタン等によるミサイルの脅威に対抗するため、新たに5兆円の防衛予算を措置します。防衛予算においては国際標準である対GDP比2%の達成を継続的に維持するため、来年度の本予算においては今回の補正予算の5兆円を既に盛り込んだ10兆円とする予定です。これで今回の補正予算における予算額は合計で5.1兆円となります。これはリーマンショック以降の補正予算としては過去最大規模のものとなり、政府はこの内の5兆円を赤字国債の発行によって財源を捻出します。 また、政府は今回の安全保障政策の拡充を図る財政政策を積極的に行うことで、現在の日銀による金融緩和政策と連携して、デフレ脱却の起爆剤にすることをひとつの目標としています。 それでは今回の補正予算についての総理のコメントです。」 テレビの電源を切った片倉は立ち上がった。 「もう行くん?」 「ああ。やわら行かんとな。」 「次はいつ家に戻って来るん?」 「そうやな…。」 「新幹線は3月14日に開通するらしいわよ。」 「あ…そうか…その手があったか。」 「2時間半で東京やし、私もいつでも行こうと思ったら行けるわね。」 「ふっ…来ても相手出来んかもしれんぞ。」 「別にいいわいね。あなたが相手できんがやったら若林さんと一緒にお茶でもするわ。」 「え…。」 片倉は絶句した。 「嘘よ嘘。あの人つまんない人なの。」 「どこが。」 「だって少しは不倫しとる感じださんといかんから、手でも繋ごっかって言ったら、ボディタッチだけは勘弁してくれって。後で変な誤解が生まれたらあなたにどつかれるって。」 「ふっ…。」 「ぱっと見韓流スターみたいで素敵なんやけどねぇ…。」 「やめれ。」 「あ怒った。」 「怒っとらん。」 そう言って片倉は妻を抱きしめた。 「京子は?」 「ほら、またあなた忘れとる。」 「何が。」 「今日はクリスマスイブやよ。」 「あ…。」 「相馬くんとデートでもしとるんやろ。」 妻の肩越しに片倉は笑みを浮かべた。 「え?東京に?」 「うん。」 相馬と京子は昭和百貨店の一階にある喫茶店にいた。 「なんでまた。」 「知らんわいね。」 プリンを食べ終わった相馬はナプキンで口を拭った。 「あれ?」 「なに?」 「ちょ…京子ちゃん…。」 遠くを呆然として見つめる相馬に京子は怪訝な顔をした。 「だから何ぃね。」 「ほら…あそこ…。」 相馬が指す方を京子は振り返って見た。 「え…。」 そこには山県久美子が猫背の男と向かい合って座っていた。 「東京に行かれるんですか。」 「ええ。」 「どうしてまた。」 男は胸元からハンカチを取り出した。 「あ…。」 「覚えてらっしゃいますか。これ。」 「ええ。」 「こいつを渡してこようと思いましてね。」 「たしか…娘さんでしたっけ。」 「おお、よく覚えてますね。」 「だって古田さんみたいな人がウチの店にひとりで来るなんて、普通ないシチュエーションですから。」 「あ、やっぱり。」 2人は声を出して笑った。 「それにしてもあれから随分と日が経ってますけど。」 「ええ、ちょっと立て込んどってなかなかあいつのところまで行けんかったんですわ。」 「そうですか。」 「まぁあんたとこうやってここで茶を飲めたのも何かのご縁やったってことですわ。」 「そうかもしれませんね…。」 そう言ってコーヒーを口に運んだ時のことである。久美子の動きが止まった。 「どうしました?」 笑みを浮かべた久美子は古田の後ろを指さした。彼はそれに従って振り返る。 「あ。」 「そう言えば今日はクリスマス・イブでしたね。古田さん。」 ポリポリと頭を掻いた古田は苦笑いを浮かべた。 「はいもしもし。はいええ…。ですからブログ記事の出版はお断りしてるんですよ。え?どうやって取材?知りませんよ。おたくも出版社ならそこら辺のノウハウあるでしょ。ええ…はい…ですからそれはできません。」 黒田は眉間にしわを寄せながら電話を切った。 「...ったく...あいつら何なんだよ。なんで俺がブログ書いた人間だってわかるんだよ。」 「すごいっすね。黒田さん。あれから半年も経ってんのに、まだ出版社からバンバンオファーがあるじゃないっすか。」 「あん?」 「俺は思ってましたよ。黒田さんはできる男だって。」 「なんだよ三波。お前気持ち悪いぞ。」 「いや。黒田さんこそジャーナリストっす。会社の他の記者連中にも爪の垢煎じて飲ませてやりたいっすよ。」 「キモい。」 「黒田さん。実は俺いまネタに困ってるんですよ。何か旨いネタありませんかね…。」 「ない。自分の足で稼げ。」 「そんなこと言わずに。」 そうこうしている間に黒田の携帯が鳴った。 「はい。…え?金沢銀行と高岡銀行の合併!?マジですか!?」 電話を切った黒田は急いでノートパソコンをリュックにしまった。 「ヤスさん!」 「何だよ。」 「ヤスさん。今から金沢銀行です。」 「えぇ…今日は定時で帰らせてくれよ。」 「駄目です。スクープです。」 「そんなこと言わずたまには三波にも譲ってやれよ。お前が出張ると必然的に俺がカメラ回すことになるんだからさ。」 「そうですよ黒田さん。安井さんの言うとおりですよ。黒田さんも安井さんも働きすぎです。」 「つべこべ言わないで下さい安井さん。行きますよ。」 「嫌。」 「なんで!」 「だってお前口臭ぇもん。」 安井は鼻を摘んだ。 「うるさーい!」 「年内に医者行ってなんとかするって言ってたじゃん。」 「それとこれ何の関係あるんですか!」 「…ねぇな。」 笑みを浮かべた安井はカメラを取りに控室へ向かった。 昭和百貨店を出た相馬たちはバス停でバスを待っていた。 「今日はお休みなんですか?」 「うん。」 「だってクリスマスやし、店混んどるんじゃないんですか。」 「いいの。今日はちょっとゆっくりしたいの。なに?京子ちゃんウチの店手伝ってくれるの?」 「え?今日?」 「うん。」 京子は相馬を見た。彼はしょうもない顔をしている。 「ははは。嘘よ。そんなことしたら相馬君が怒っちゃう。」 「う…うん…。」 「あのね今日はお墓参りに行こうと思ってるの。」 「あ…。」 「最近忙しくってなかなか行けなかったから、あの人のところに行こうと思ってね。」 「一色さんですね。」 久美子は頷いた。 「熨子山行きのバスは後30分後ですね。」 「うん。」 「それにしても古田さんも水臭いですね。」 「え?」 「あとは若いもんでクリスマスイブの楽しい時間を過ごしてくれって行って帰ってしまった。」 「あ…何かあの人、東京の方に行くらしいよ。」 「え?東京?」 「うん。だから私にお別れを言いに来たみたい。」 相馬と京子の表情が変わった。 「京子ちゃん。」 「周。」 「なに二人とも。」 「これってアレじゃねぇが。」 「周もそう思う?」 「おう。」 「何よ2人揃って…。」 困惑した久美子をよそに相馬と京子は何やらブツブツとお互いの意見を交換しているようだった。 「久美子はこれから熨子山の一色の墓に行くみたいです。」 「そうか。」 「ワシはこれからあいつを付けます。」 「頼む。なにせ鍋島の特殊能力の影響を受けて存命する数少ない人間のひとりだからな。」 「はい。しかし石電の警備員が自殺とは…。」 「鍋島の妙な力のメカニズムが解明されないことには、あの事件は本当の意味で解決したことにはならないからな。」 「片倉から聞いています。都内でもなんや常識じゃ考えられん殺しが起こっとるって。」 「そのための片倉招集だ。」 「休む暇なしですな。松永理事官。」 「あーあ本当だよ。古田、お前も片倉と一緒にこっちに来いよ。こっちは猫の手も借りたいんだ。」 「勘弁してください。ワシはここで片倉の代わりに久美子を監視することに専念させて下さい。わしも年で正直身体が言うこと効かんくなっとるんですわ。」 「撃たれてもまだ久美子の監視に従事してんのに?」 「ははは。まぁあとわし結婚式も出んといかんですから。」 「あー佐竹のか。...えっとあれはいつだったっけ。」 「明日ですよ。」 「明日!?マジか。」 「マジっす。」 「...そいつは良かったな。おめでとう。」 「一色の同僚警官からのお祝いの言葉、あいつにしっかりと伝えますよ。」 古田はクリスマスの電飾光る香林坊の並木道を眺めた。コートなどの防寒着に身を包んだ通りを行き交う者たちは皆、一様に笑顔である。 「あ。」 「何だ。」 「そういやぁ理事官もやわらご結婚っちゅう歳...。」 「うるさい。構うな。」 「なんか良い人おらんがですか。」 「その話はもうするな。俺は恋などとうに忘れた。」 「それ...どこかで聞いたような...。」 「切るぞ。後は頼んだぞ。」 一方的に電話を切られた。 「なんだかんだ言ってワシはまだまだおもろい奴らと仕事できとるわ。」 ポケットに手を入れた古田の頭に冷たいものが当たった。ふと空を見上げるとそれははらはらと舞い降りてくる粉雪たちであった。 「えーっと明日の挨拶どうすっかな...。」 完
    Sun, 01 Jan 2017
  • 229 - 127.2 第百二十四話 後半
    125.2.mp3 7時間前 12:00 「1512室ですか?」 「はい。」 「失礼ですがお名前をお願いします。」 「岡田と言います。」 「岡田様ですね。失礼ですがお名前もいただけますか。」 「圭司です。」 「岡田圭司様ですね。しばらくお待ちください。」 ホテルゴールドリーフのフロントの女性は受話器を取って電話をかけはじめた。 「フロントです。ロビーにお客様がお見えになっています。はい。ええ男性です。岡田さんとおっしゃるそうです。ええ。はい。かしこまりました。それではお部屋までご案内致します。」 女性は電話を切った。 「私がご案内いたしますので、一緒に来ていただけますか。」 「え?どこか教えてくれれば自分で行きますけど。」 「当ホテルのスイートルームになりますので、私がご案内いたします。」 「スイート?」 エレベータを5階で降りそのまま廊下をまっすぐ奥に進むと、いままであった部屋のものとは明らかに作りが違うドアが現れた。重厚な作りの観音扉である。女性はインターホンを押した。暫くしてその扉は開かれた。 「おう。」 「え?」 扉を開いたのは数時間前まで捜査本部に岡田と一緒にいた、県警本部の捜査員だった。 「え…なんで?」 「まあ入れま。」 豪華な作りの玄関を抜け、いよいよ部屋の中に入るという時に岡田は異変を感じ足を止めた。 「あれ?おいどうした。」 「あの…なんか騒がしくないですか。」 「ほうや。訳あって大所帯になっとる。」 捜査員が部屋の扉を開くとそこはくつろぎの空間というより会議室だった。上座中央には最上が座り、その隣に土岐が座っている。 「よく来たね岡田くん。」 「本部長これは一体。」 「土岐くんは君に紹介するまでもないね。」 「え…ええ。」 「じゃあこちらから紹介しよう。まずは県警本部警備部公安課の神谷警部。」 最上の紹介にあわせて神谷は頭を下げた。 「え?公安?」 「次に同じく警備部公安課の冨樫警部補。」 「冨樫です。よろしくお願いします。」 「そして冨樫くんの前に座っているのは…。」 岡田は思わず目をこすった。 「み…三好…さん?」 三好は岡田を見て笑顔で会釈をした。 「なんで…。」 「岡田くん。まぁ掛けてくれ。」 最上に促されて岡田は席についた。 「岡田くん。君をこの席に呼んだのはほかでもない。先程も言ったように君には最後の仕上げをして欲しいんだ。」 「あの…本部長。」 「岡田くん。君は「ほんまごと」の記事が真実に迫るものがあると言った。」 「あ、はい。」 「その根拠は君が信頼する人間が紹介してくれた奴が、あの記事を書いているからと言った。」 「はい。」 最上は立ち上がった。 「その君が信頼する人間ってのは片倉くんだ。」 「え?」 「県警警備部公安課課長、片倉肇くんだよ。」 「公安課課長?」 「そうだ。民間企業の営業マンじゃない。彼はれっきとした警察官だよ。」 片倉は警察をやめ警察OBが経営する会社の営業になった。この情報しか持ち合わせていなかった岡田は最上の言葉がにわかには信じられない。 「岡田くん。ほんまごとを読んだだろう。あれは片倉くんによる公安警察の捜査内容そのものなんだ。病院横領事件、一色の交際相手の強姦事件、熨子山事件、鍋島の生い立ち、村上殺害の謎、ツヴァイスタンの工作活動実態、背乗り、金沢銀行の不正プログラムなどなど、あの全てが片倉くんによって黒田にリークされた。」 「ほ…本当ですか。」 「本当だ。」 岡田は唾を飲み込んだ。 「初見であの記事を完璧に読み解くのは困難だ。なにせ情報量が多すぎる。記事自体は衝撃的な内容が目白押しだが、熨子山事件をずーっと追っている人間ぐらいしか読み解けない内容になっている。だが長年デカをやっている勘のいい君はあれを読み解いたんだろう。」 「…警察の中にもツヴァイスタンの協力者がいる。」 「…さすがだね。」 「居るんですか。」 「正確に言うと居た。」 「居た?」 「ああようやくパクったよ。ついさっきね。」 「ひょっとして…その協力者は…。」 「朝倉忠敏。」 「…やっぱり。」 「朝倉はついさっき片倉課長の手で逮捕されたよ。」 「どこでですか。」 「公安調査庁の中で。」 「公調の中で?」 「うん。」 後ろ手に組みながら最上は部屋の中をゆっくりと歩き回る。 「本件捜査はチヨダ直轄マターでね。極秘裏に進められていた。本件捜査のコードネームはimagawa。」 「イマガワ…。」 「imagawaは朝倉を中心としたツヴァイスタン関係者を一斉検挙するのが目的の捜査だ。その詳細は話せば長くなるからここでは君に説明しないよ。それよりもだ。」 「はい。」 「実はこのimagawaはまだ終結していないんだよ。」 「本丸の朝倉がパクられたと言うがにですか?」 最上は頷く。 「ほんまごとの中に村井という人物の名前が出てきただろう。」 「村井?ですか?」 「ああ。<Sと少年>という行に出てきている。」 岡田は記憶を辿った。 「あ…ありました。Sの調査助手をしとるとか言った…。」 「そうだ。その村井をその目で見た男がここに居る。」 何かに気がついたのか。岡田は席上の一人の男を見た。 「そう。Mこと三好元警備課長だ。」 こう言って最上は再び席についた。 「ついては岡田くん。君にはこの村井の検挙をお願いしたい。」 「罪状は。」 「現行犯であればなんでもいい。」 「どうやそっちは。」 「スタンバイOK。」 岩崎がステージの中央に立った。そして参加者に対して一礼すると会場は割れんばかりの拍手で覆われた。 「香織っ!」 ステージとは対極にあるホールの入口が開かれ、ひとりの学生風の男が突然現れた。 「香織…こんなところで何やっとれんて…。」 男は力なくステージに向かう。彼が進む先の参加者の群衆は2つに割れ、岩崎への道を作り出した。彼はその道をゆっくりと進む。壇上の岩崎は戸惑いを隠せない。 「何なんや…。これ…。お前こんなキモい会の運営なんかやっとったんか。」 男のキモいというフレーズに会場内は凍りついた。 「最近連絡が取れんと思っとったら、こんなとこでお前は不特定多数の男連中に色目使ってチヤホヤされとったんか.。」 「おい何だあいつ。」 村井がスタッフに尋ねた。 「...わかりません。ヴァギーニャって彼氏とかいましたっけ?」 「いや聞いたことがない。」 「追い出しますか。」 「ああそうしろ。」 複数のスタッフが男を取りおさえるために駆け寄る。すると男は壇上めがけてダッシュした。 そして岩崎を背後から羽交い締めにした。 「おい!何やってんだ!」 男の手にはサバイバルナイフが握られている。彼はそのナイフを岩崎の背中に突きつけた。 「あ…。」 会場は凍りついた。岩崎は男によって人質に取られたと会場の全員が理解した瞬間だった。 「お前らふざけんな。香織は俺のモンや。香織はオメェらみたいなキモオタなんか眼中にねぇんだよ!」 「おい落ち着け。」 村井が男に声をかける。 「あん?」 「落ち着け。ひとまずその物騒なものを置け。」 「あんだテメェ。なんで俺に命令なんかすれんて。」 「命令じゃない。ナイフを床においたらどうですかって提案してるだけだ。」 「気に食わん。」 「じゃあどうしろと?」 「香織を殺す。」 「え?」 「香織は俺のモンや。オメェらにはぜってぇやらん。」 「ちょ…待て。」 村井が声を発する前に男が持つナイフの刃が岩崎の背中に入り込んだ。そしてそのまま岩崎は床に倒れた。 今まで見たこともない状況が目の前で起こった。会場の全員は状況をまったく飲み込めない。ただ沈黙が流れる。しかしそれはある参加者の悲鳴で解かれることとなった。コミュの運営スタッフは全員で男を取り押さえた。 「へ…へへへ…ざまぁ。」 ヘラヘラと笑いスタッフに連行される男とは対象的に岩崎はピクリとも動かない、ようやく運営スタッフが彼女に駆け寄り声をかけた。しかし反応はない。何度も何度も声をかけ体を擦るも反応はない。その様子を見ていた参加者たちがここで感じたのは岩崎の死だった。 「みなさん!落ち着いて!」 村井が声をあげた。 「皆さん落ち着いて下さい。いま救急車が来ます。僕らはそれに望みを託すしかありません。」 岩崎の側のスタッフは諦めずに彼女の名前を呼び続ける。 「男はこちらで取り押さえました。既に警察に通報しました。これも救急車同様もうすぐ来るでしょう。ですが…」 村井は言葉に詰まった。 「…なんで…なんでこんなことが起こってしまうんだ…。彼女は前から警察に相談していたはずだ…。」 村井の言葉に会場はざわつく。 「みなさん。岩崎は以前から警察に相談をしていました。ストーカーに付きまとわれていると。ですが警察はそれを取り合ってはくれませんでした。その結果がこれです。そしてこの結果を作り出した警察がこの事件の捜査をおこなうんです。なんなんでしょうか!?泥棒が泥棒を捕まえるってまさにこのことじゃありませんか?こんな職務怠慢が放置されていていいんでしょうか?良い訳ありません。絶対に撲滅するべきです。」 そうだそうだと村上に同調する声が上がった。 「岩崎はヴァギーニャです。我々の女神です。この女神に危害を加えさせることになった警察の不手際は不手際という簡単な言葉で片付けられていいんでしょうか?」 会場のものたちは首を振る。 「そうです。そんな言葉で許されるわけがないのです。第一考えても見て下さい。あの警察機構というのは権力そのものです。権力は絶対的に腐敗します。この事件はその腐敗もここまできていると言うことの証左でもあります。」 みな村井に同調している。 「我々は既得権者や権力者から数々の迫害を受けています。彼らが私たちにこういった仕打ちをするのは、裏を返せばそれだけ奴らにとって我々は都合が悪い存在だということを示しています。都合が悪いと思われるのは我々が一定の影響力をもっているからです。奴らは我々を脅威に思っているのです。それは翻って言えば我々は強いということです。我々は強い。強い我々は奴らを打倒するために今こそ行動を起こさなければなりません!」 会場から歓声が上がった。村井の演説が会場を一体化させた。 「ヴァギーニャの命に変えても革命を成し遂げる!我々は今こそ立ち上がるときだ!我こそはと思うものだけが私に続け!私の考えに同調しないものは、今すぐこの場から去れ!」 村井の言葉に殆どの参加者が賛同していたが、中にはやはりこの異様な空気についていくことができずに会場を後にするものもいた。しかし彼らはことごとく会場外で運営スタッフに止められ別室へと連れられていった。 「村井さん!」 参加者の一人が声を上げた。 「なんですか。」 「村井さんのおっしゃるその革命はどうやってなし得るんですか。」 「聞きたいですか。」 「ぜひ。おそらくここにいる皆も聞きたいと思っています。」 参加者は村井を見つめている。彼は深呼吸をしてゆっくりと口を開いた。 「暴力によってのみ革命は成し得る。」 「暴力?」 「ええ。」 「…村井さん。詳しく聞かせてくれませんか。」 「残念ながらここにいる皆にとはいきません。」 「じゃあ私にだけ聞かせてください。」 「君だけに?」 「はい。」 参加者たちからブーイングが起きた。村井はそれを制止する。 「どうして君だけに?」 「今川さんから言われています。」 「今川…。」 村井の表情が変わった。 「ぜひその任を私に。」 「あなたの名前は?」 「岡田です。」
    Sat, 31 Dec 2016
  • 228 - 127.1 第百二十四話 前半
    125.1.mp3 金沢駅近くの会館。この一階の大ホールに大勢の人間が集まっていた。コミュの定例会である。参加者は先日のものより数段多い。これも岩崎香織が電波に乗った効果なのだろうか。 「みなさん。こんばんわ!」 司会者が参加者に向かって大きな声で挨拶をするとそれに参加者は同じく挨拶で応えた。 「いやー今日は随分と参加者が多いですね。特に男性の方がいつもより多い気がします。」 彼がそう言うと参加者はお互いの顔を見合った。 「やっぱりなんだかんだと言ってテレビの影響力ってすごいんですね。試しに聞いてみましょうか。今日始めてここに来たっていう人手を上げてみて下さい。」 半数が手を上げた。 「なるほどー。じゃあ今手を上げた人たちにもうひとつ聞いてみましょうか。岩崎香織を見てみたいって人は手を上げてみて下さい。」 全員である。 「いやー岩崎人気はすごいですね。」 ステージの裾の方にいた村井は腕時計見目を落とした。そして側にいたスタッフに声をかける。 「インチョウは。」 「駄目です。携帯の電源が切られてます。困りましたね。」 「…何なんだよ。こんな大事な時に。」 「連絡が取れんがですから。仕方が無いっすよ。村井さんがインチョウの代わりにこの場を仕切るしかないっす。」 「俺がか?」 「ええ。そのための共同代表っしょ。」 「まあな…。」 こう言って村井はステージ袖の奥にひとり佇む女性の側に駆け寄った。 「岩崎。」 「あ…はい…。」 「おまえインチョウのこと知らいないのか。」 「はい。」 村井は舌打ちした。 ーそれにしてもあの今川さんが直々に俺に電話をしてきたってのが気になる…。 昨日 「え?明日のコミュでインチョウと岩崎の身に危険が?」 「そうだ。とある情報筋から入手した。だからあいつらの周辺には常に目を配れ。」 「はい。」 「ただお前らがいくら目を光らせたところで、相手がプロの場合はどうにもならない。もしものことがあれば村井、お前がコミュを引っ張るんだ。」 「俺がですか。」 「ああ。明日は決起の日だろ。」 「はい。手始めに夜の片町のスクランブル交差点にトラックを突っ込ませます。」 「週末金曜の夜に酒を飲んでごきげんな奴らを轢き殺すのはわけもない。コミュに来ているようなリア充憎しの連中にはもってこいの対象だな。」 「原発の爆発事件で世間がそっちに向いている中、ソフトターゲットを襲うことで市民の恐怖感を増幅させます。ソフトターゲットのテロを頻発させることで恐怖は警察や警察などの統治機構への疑念にかわっていきます。そうやって日本国人の分断を図ります。」 「もしも。もしものことだが、インチョウや岩崎に何かがあればそれを利用しろ。コミュは迫害を受けていると。そうすることでコミュの団結力も増すはずだ。」 ーまぁインチョウが来られないんだったら、とりあえずあの人の安全は確保できるってわけだ。ただもしもこの岩崎に何かがあったら…。今日これだけの人数が集まったのも岩崎をひと目見たいってだけのただのミーハーばっかり。アイドルの追っかけみたいなキモい連中ばっかりだ。もしも岩崎が今川さんが言うような危険に晒されるようなことがあったら、こいつら爆発しかねない。 「村井さん?」 「あん?」 「どうしたんですか顔色が悪いっすよ。」 「気にすんな。」 ーまてよ…。そのミーハー達の怒りを利用すればいいか。 「テレビをご覧になられた方はご存知かと思いますが、私達コミュでは数名のグループに分かれて話し合います。そこでグループメンバーの意見をすべて受け入れて、その後に自分の思いの丈を語る。ですからお目当ての人と同じグループになれるかどうかは保証できないんです。」 司会者がこう言うとご新規さん達の表情が途端に曇った。 「ですが今日はじめてコミュに来られた方にだけ特別な措置を講じようと思います。」 会場はざわついた。 「それはコミュの代表からご説明させていただきます。」 司会者がこう言うと、既存メンバーからインチョウの登場を期待する歓声が上がった。 「それでは代表よろしくお願いします!」 ステージの袖から村井が現れた。 いつもとは違う人物の登場に既存メンバーの周辺はざわついた。 「みなさんこんばんは。」 参加者は村井に応える。 「いまほど司会が言ったように、今日はたくさんの方に来ていただいて僕も本当にうれしいです。私、コミュを運営する村井といいます。よろしくお願いいたします。」 村井は深々と頭を下げた。 「本来なら共同代表のインチョウも一緒にご挨拶させていただくところですけど、残念がらインチョウはどうしてもはずせない急用ができまして本日コミュに参加できません。寛容な精神をお持ちの皆様ですので、その辺りはぜひともご理解いただけることと思います。」 他者の意見を受け入れることが前提のコミュにおいて、この村井の一言は参加者に響いたようだ。参加者たちは一様に頷いて村井に理解を示している。 「さて、今日は普段よりご新規さまが大勢お越しのようです。そのご新規の皆さんのお目当ては他でもない当方の運営担当の岩崎であると、先程判明しました。」 既存メンバーからかすかな笑い声が起こった。 「僕がこういうのも何なんですが、岩崎に目をつけた皆さん。お目が高い。彼女はこのコミュではバギーニャと言われています。バギーニャとは女神を指す言葉です。どうして女神と言われるか。見た目の美しさも去ることながら、彼女はありとあらゆる悩みや意見を本当に分け隔てなく聞き入れる力を持っているからです。」 古株の参加者たちは村井の言葉に頷く。 「本当に今日は多くの方がお越しになられています。なので今日は特別にはじめてのみなさん全員を岩崎のグループにセッティングしようと思います。岩崎のグループということはみなさんは皆平等に彼女との接点を持てるということです。」 この発言に新規メンバーから歓呼の声があがった。 「さあ私の挨拶はこれぐらいにして、皆さんお待ちかねの方に登場してもらいましょう。バギーニャ!」 ステージ袖から岩崎がゆったりとしたBGMにのせて静かに登場した。会場の参加者たちは彼女の美貌に思わずため息をついた。先程、岩崎と平等な接点を持てるということで湧き上がっていた新規メンバーたちもこの時は皆彼女の佇まいに静かに見入った。 「堂々としたもんですね。」 「慣れとるんや。」 「多分こうやって岩崎目当てで来た連中を釣って、上手に取り込んで勢力を拡大させてんでしょうね。」 「今日だけの特別措置とかもったいぶっとるけど、おそらくこれはいつものことや。」 「そうでしょうね。」 耳に装着したイヤホンから聞こえる声に、コミュの参加者に混じる岡田が応えた。
    Sat, 31 Dec 2016
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